ブラームスを追い求めて その2


 ドイツの作曲家の一人ヨハネス・ブラームスをゲッティンゲンで追い求めるシリーズ、その2です。その1は↓こちら。


 
 ドイツの北の港町ハンブルクで生まれたブラームスは、ハンガリー出身のヴァイオリニストと一緒に演奏旅行であちこちを転々としていた若かったころに、生涯の友人となったヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムと知り合い、ヨアヒムを訪ねて1853年(ブラームスは20歳になったばかりのころ)にゲッティンゲンへ立ち寄っています。しかもこの町で開かれたコンサートに、ピアニストとして出演、演奏しています(当時のコンサート批評が掲載された新聞記事→“Göttingen im August,” Rheinische Musik-Zeitung für Kunstfreunde und Künstler, Vol. 4, No. 178 (September 14, 1853), pp. 1338-1339.)。

 ゲッティンゲンを離れたあと、同年の秋にデュッセルドルフでシューマン夫妻に会ったのち、デトモルトという地で1857年から仕事をしていたブラームスは、アガーテ・フォン・ジーボルト Agathe von Sieboldと出会いました。「アマティ(ヴァイオリンの名器のこと)のような声」とヨアヒムに称されたその歌声はとても魅力的だったようで、ヨアヒムの周りに集まってきていた若い演奏家たちともよく一緒に演奏をしており、やがてブラームスとアガーテは恋に落ち、結婚の約束をしていました(ヨアヒムは1857年にゲッティンゲンを訪れ、アガーテと知り合い、さほど遠くないデトモルトで仕事をしていたブラームスは、やはりゲッティンゲンを訪れていて、そんな中で知り合ったのかな~、と思っています。実際は分かりませんが)。しかし、残念ながら結局二人は結婚することなく別れてしまったのですが。まあ、アガーテにしてみれば、自分のことを「足かせ」だと言っちゃう人とは、一緒に生きていけないですよねえ。なんでそんなことを言っちゃったんだ、ブラームスは。ちなみに、ブラームスが婚約までした女性は、人生でアガーテ一人だけでした。

 そのアガーテの生家が、私がいま住んでいるアパートからすぐ近くだったので行ってみました。当時はAccouchierhausesと呼ばれた建物で、現在はゲッティンゲン大学のMusikwissenschaftliches Seminar – Musikinstrumentensammlung(音楽学科研究室の所蔵楽器が展示されているところらしい)となっていて、建物の北側の壁に、アガーテ・フォン・ジーボルトが1837年に生まれた、というプレートが掲げられています。そしてアガーテの名前の下に“Johannes Brahms’ Jugendliebe(ヨハネス・ブラームスの若いころの恋人)”とも書かれていました。

 ブラームスが若いころにはすでに写真の技術があったため、ブラームスは肖像画よりも写真が多く残されているのですが、実はとある縁から20歳のときのブラームスを撮影したネガから現像した写真を持っています(実家の私の部屋に飾ってあるのですが、あまり知られていない写真だからか、ネットでは見つけることができなかった……)。これがまた見惚れるような美青年で、この数年後にアガーテと恋人同士になったのかと思うと、なぜだか感慨深い気持ちによくなったものです。

 ブラームスのことからちょっと離れますが、歴史でも習う長崎の出島にやってきたドイツ人医師フィリップ・フランツ・フォン・シーボルトは、アガーテの父エドゥアルト・カスパル・フォン・ジーボルトの従兄でした。そのため、アガーテは出島のシーボルトと親戚だったというわけです。
 『シ』ーボルトと『ジ』ーボルトと、表記が違っていますが、どちらが正しいとかではありません。ドイツ語は基本的に母音の前のsを有声(ザ、ズィ、ズ、ゼ、ゾ)で発音しますが、地方によっては無声(濁音にならない)で発音されることがあります。とくに、バイエルン州はその傾向があるようで、アガーテの父親や従兄だったフィリップは、ともにドイツのWürtzburg ヴュルツブルクというバイエルン州の町で生まれているため、シーボルトと発音されていたことが想像できますが、アガーテの父は1833年に仕事でニーダーザクセン州のゲッティンゲンへと移り住んだため、有声で発音されるようになり、ジーボルトという表記なのかもしれません。その辺ははっきり分からないため、あくまでも私の想像ですが……。

 ブラームスの恋人だったアガーテは、ブラームスと別れたあと、1868年にプロイセン王国の衛生顧問官で開業医だったカール・シュッテ Carl Schütteと結婚し、1909年にゲッティンゲンで亡くなりました。彼女はゲッティンゲンの市営墓地で眠りについています。このお墓にもいずれ行ってみようと思っています。
 
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